[記事公開日]2016/04/29

衛星「ひとみ」は太陽電池パネル分解によるトラブルからの復旧は不可能なため運用断念

X線観測衛星「ひとみ」が運用断念!

衛星「ひとみ」が運用断念となりました!

JAXA(宇宙航空研究開発機構)は昨日の4月28日、軌道上でトラブルが発生したX線観測衛星「ひとみ」の運用を断念すると発表しました。

電力供給に不可欠な太陽電池パネルが全て脱落してしまい、復旧は困難と判断した模様です。

『X線観測衛星「ひとみ」は地球を回る軌道からの電波が通信不能でトラブルや分解した可能性』、あるいは『X線観測衛星「ひとみ」が通信途絶から復活できるかは太陽光発電の電力回復が鍵』、こちらの記事の中でも書きましたが、3月26日に、X線観測衛星「ひとみ」からの通信が不能になるトラブルが発生していました。

JAXA(宇宙航空研究開発機構)では、対策本部を設けて原因の追究と復旧に向けた努力を続けていましたが、ついに、「ひとみ」の運用を断念するに至りました。

とても残念なことです。

X線観測衛星「ひとみ」は、日本とアメリカなどが共同で開発したX線天文衛星です。

ブラックホールや銀河団などを観測し、宇宙の成り立ちを探る計画の元、「宇宙の天文台」としての期待を背負って、世界中の天文学者たちの注目を浴びていた国際協力プロジェクトでした。

X線観測衛星「ひとみ」は、昨年運用を終えた「すざく」の後継機であり、全長14メートル、重さ2.7トン、X線望遠鏡4台とガンマ線検出器2台を搭載していました。

X線観測衛星「ひとみ」は、従来より10倍以上優れたX線エネルギー計測精度を持つ革新的な軟X線超精密分光望遠鏡システム、高精度イメージング能力により従来より10倍以上の高感度を持つ硬X線/ガンマ線検出器を搭載していました。

衛星「ひとみ」は、今年2月17日に、種子島宇宙センターから打ち上げられましたが、打ち上げ後に、「熱い宇宙の中を見る瞳」などの意味から「ひとみ」と名づけられました。

打ち上げ費用を含む日本の開発費は約310億円であり、NASA(アメリカ航空宇宙局)は約7000万ドル(約76億円)を投じました。

X線観測衛星「ひとみ」は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が、NASA(アメリカ航空宇宙局)などの協力を得て、およそ310億円をかけて開発した「宇宙の天文台」であり、その名前が示すとおり、「宇宙を見る新しい目」として、世界の天文学者から大きな期待が寄せられていただけに、今回の「ひとみ」の運用断念はとても残念です。

 

太陽電池パネルが全て脱落して分解してしまい、復旧は不可能

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JAXAの解析で、「ひとみ」では、2つの太陽電池パネルがいずれも根元から折れ、本体から分離しているとみられることが分かり、JAXAは、復旧の見込みはないと判断し、28日に運用を断念するに至ったようです。

JAXAが原因を調べたところ、衛星「ひとみ」の姿勢制御のプログラムが不十分で機体が回転し、「ひとみ」は自動的に噴射で立て直そうとしましたが、事前に送った信号に設定ミスがあり、逆に回転が加速したようです。

このため、太陽電池パネルや長く伸びた観測用の台の根元に遠心力がかかり壊れたとみられています。

「ひとみ」のトラブルのイメージとしては、次のようになるようです。

☆ 衛星「ひとみ」のトラブルのイメージ
★機体が回転していないのに、回転しているとコンピューターが誤判断
★姿勢制御装置や小型エンジンが作動し実際に回転を始める
★高速回転の遠心力で太陽電池パネルが全て脱落

JAXAは当初、通信が途絶えた後も3月28日までは衛星からの電波を短時間確認できたとして、太陽光パネルが太陽の方向を向くようになれば復旧の可能性があるとしていました。

しかし、電波は別の衛星のものだと判明したと言います。

「ひとみ」の機体へ電力を供給する太陽光パネルが全て脱落してしまい、通信や観測の再開は不可能になったと判断し、運用を断念せざるを得なくなったようです。

 

人為的なミスに加えて搭載ソフトにも問題があり、システム全体の運用体制が問われる

JAXAの分析によると、本格観測に向けて準備中の3月26日、「ひとみ」の搭載コンピューターが実際には機体が回転していないのに回転していると誤判断したようです。

そして、慣性を利用して姿勢制御するための装置が作動してしまい、小型エンジンも噴射したため、機体が高速回転を始めてしまいました。

その結果として、機体の両側に3枚ずつ、計6枚ある太陽電池パネルが遠心力により全て根元から脱落してしまったようですが、これは、姿勢制御ソフトの設計ミスということになります。

そして、それに加えて、2月に地上から誤った命令を送って小型エンジンの噴射設定を変えていたために、回転が速まってしまったようですが、これは、人為的なミスということになります。

つまり、人為的なミスに加えて、コンピューターの搭載ソフトのプログラムにもミスがあり、二重のミスが重なって、今回の「ひとみ」の運用断念に至った模様です。

JAXAの分析では、プログラムにミスがあったほか、地上の担当者が誤ったデータを送る人為的なミスが重なったことで、こうした事態を招いたとしています。

さらには、『衛星「ひとみ」の製造費用は300億円投入されておりJAXAの運用に文部科学省も問題視』、こちらの記事の中でも書きましたが、衛星「ひとみ」は24時間体制での監視システムがとられていませんでした。

衛星「ひとみ」との通信のための地上局は、鹿児島県の内之浦と千葉県の勝浦にあり、送受信の制御は相模原の宇宙科学研究所(ISAS)で行われています。

3月26日、衛星「ひとみ」はそれまで観測していた「かに星雲」から「活動銀河核」へ、望遠鏡の向き(姿勢)を衛星ごと変更しました。

3時22分、計画通り姿勢変更に成功したと思われていますが、この姿勢変更は、監視がない状況で行われていました。

内之浦局の可視は3時13分に終わり、その次は23時39分まで20時間以上なかったのですが、衛星「ひとみ」を「かに星雲」から「活動銀河核」へ向ける姿勢変更は午前3時1分から21分間かけて行われています。

つまり宇宙科学研究所(ISAS)の管制室は20時間もの間、内之浦局で姿勢制御の結果を受信することができない状況の中で、姿勢変更が行われたのです。

そして、その直後の4時10分頃、姿勢異常が発生したと推定されているようです。

16時時40分に再びミンゲニュー局上空を通過した「ひとみ」は既に壊れていたので、電波を送ってこなかったと言います。

この点について、文部科学省の有識者委員会である宇宙開発利用部会では「なぜ、内之浦局の可視がない時間帯に姿勢変更を行ったのか」という疑問が出されたようですが、JAXA側は「すでに運用が安定していたので大丈夫だと考えていた」と答えたとのこと。

この間、もし可視が24時間体制で行われていれば、「ひとみ」を復旧させるチャンスはあったのかも知れません。

大規模システムでありながら24時間の監視体制をとらず、監視時間外に重要な作業を行ってしまったことは、大規模システムの開発運用としては問題点もあったということが言えそうです。

24時間体制の監視システムを運用するとなると、人件費などのコストもかかることになりますので、予算などの面で運用が難しい部分もあったのかも知れません。

しかし、300億円もの開発費が投入された巨大な国際協力プロジェクトの運用システムを、24時間体制で監視していないというのは、一般的な考え方からすれば、異例と感じる人も多いのではないかと思われます。

今回、監視時間外に重要な作業を行ってしまったというのは、残念なことだと思います。

JAXAの常田佐久(さく)・宇宙科学研究所長は会見で謝罪し、「人間が作業する部分に誤りがあった。それを検出できなかった我々の全体のシステムにより大きな問題があった」と述べたとのこと。

X線観測衛星は、かつては日本の「お家芸」とされましたが、2000年の「アストロE」打ち上げ失敗、2005年の打ち上げ後に主要機器が故障した「すざく」に続き、3回連続の失敗となりました。

日本のX線天文衛星のトラブルは2000年以来、3基連続で、記者会見した常田佐久(さく)宇宙科学研究所長は「成果を期待していた国民や天文学関係者に深くおわびする」と陳謝しました。

アメリカとヨーロッパは、設計寿命を超えたX線天文衛星をそれぞれ運用中であり、日本の衛星「ひとみ」は、欧州が2028年以降に次世代衛星を打ち上げるまで国際的な観測を担う筈になっていただけに、今回の運用断念は、責任重大だと言わざるを得ません。

今回の失敗は、宇宙開発の基礎的な技術で起きており、足元の技術への緊張感に緩みがないか徹底した検証が求められます。

「ひとみ」の壊れた機体は高度約580キロの軌道を回っていますが、徐々に高度を下げ、大気圏に突入して燃え尽きるとみられています。

JAXAは、原因の調査結果を今後2カ月以内にまとめる方針だとのことですが、今回の失敗は、地球の上空を飛行する衛星の姿勢の制御という、宇宙開発の極めて基礎的な技術で起きていますので、JAXAには、足元の技術への緊張感に緩みがないか徹底した検証が求められるところです。

 

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