[記事公開日]2015/12/28
[最終更新日]2016/04/09

宇宙は時間も空間も物質もエネルギーも存在しない「無」から始まったとするビレンキン仮説

宇宙は時間も空間も物質もエネルギーも存在しない「無」の世界から始まった

古来、宇宙の始まりは哲学者や科学者や宗教者の悩みの種でした。

それは、現代においても同じであり、現代物理学と宇宙論における大きな懸案でもあります。

宇宙には始まりがなくて宇宙は永遠に続いているという、フレッド・ホイルらによって提唱された定常宇宙論なども、この悩みから逃れる一つの方法とも言えるかも知れません。

ところが、宇宙は時間も空間も物質もエネルギーも存在しない「無」の世界から始まったとする物理理論があるといいます。

「無」の世界から宇宙が始まったと聞くと、まるで東洋思想の中にある世界観のようですが、れっきとした物理理論だといいます。

そして、この説を唱えたのは、アメリカの宇宙論学者のアレクサンダー・ビレンキン博士です。

アレクサンダー・ビレンキン博士は、ウクライナ共和国の出身で、カルコフ大学で物理学を専攻し卒業したものの、専門的知識を活かす職場には就けず、動物園の夜警をして生活の糧を得ていたそうです。

そして、アメリカに来るまでは物理学の中でも宇宙論ではなく、物性物理学を専門に研究していたとのことですが、その後、ビレンキン博士はアメリカに来て、宇宙物理学を学びアメリカの大学で研究者として職を得たあと、宇宙は「無」から誕生したという画期的な理論を発表し、一躍世間に知られることになります。

ビレンキン博士は、1982年に驚くべき仮説を提唱したのですが、これは「ビレンキンの仮説」と呼ばれるものになります。

ビレンキンの仮説 = 宇宙は「無」から始まった

宇宙は「無」の状態から始まったとする「ビレンキンの仮説」とは、いったいどのようなものなのでしょうか?

 

宇宙は「無」から始まったとする「ビレンキンの仮説」とは

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宇宙が「無」から誕生したという理論はビレンキン博士が最初に提案したものになりますが、彼が、「真空のエネルギー」による急激な膨張=「インフレーション」を引き起す宇宙は、「無」から生まれて来たという理論を発表したのは1982年のことになります。

ビレンキン博士は、「どうせ始まったものは始まったのだから、開き直れば良いではないか」と考えたようです。

始まりの前は何も無かったので、それなら、宇宙は「無」から始まったということになりますが、このアイデアが突飛すぎることは、当のビレンキン博士もよく分かっていたようです。

論文の中では、「宇宙が『無』から創られたという考えはクレージーなものだ。読者がこの考えに安心できるよう、もっと身近な例をあげてみよう」などと言って、他の物理学者が納得できるように、電子と陽電子の対生成の事例を紹介しているようです。

量子論では、不確定性により、電子と陽電子が同時に生成されることがあるといいますが、それまでは「真空」で古典的には何も無いので、これも立派な「無」からの物質と反物質の生成であるということができ、ここまでは大抵の物理学者は納得するようです。

次に、ビレンキン博士は、ほぼ同様な方程式を示して、電子と陽電子の代わりに宇宙と反宇宙(?)の生成が可能であることを示しているそうです。

そして、時間ゼロより「前」の部分が「虚時間」の部分であり、この「時ならぬ時」の間に「トンネル効果」によって、宇宙はリアルな存在となり、指数関数的な膨張、すなわちインフレーションを起こすことになると説いているようです。

ビレンキン博士は、宇宙をいわば1つのボールにたとえ、マクロな世界を記述する一般相対性理論と、ミクロな世界を語る量子論を結びつけて宇宙の創生の様子を示しています。

ビレンキン博士によると、「無」の宇宙の前には、その膨張を阻む「エネルギーの壁」があったのだということであり、ここで「トンネル効果」が使われています。

「無」の状態の原点から、エネルギーの壁を抜けて、「トンネル効果」で宇宙はある大きさをもって突然ポッと生まれたといいます。

一度障壁の外に出た小宇宙のボールは、宇宙を膨張させる原動力である「真空のエネルギー」によって急激に大きくなるのですが、この急激な加速膨張はインフレーションと名付けられています。

「トンネル効果」によってポッと生まれたミクロな小宇宙は、インフレーションと名付けられた加速膨張によって急激に大きくなり、10のマイナス38乗秒で相転移を起こして、超高温のビッグバン宇宙になったということのようです。

ビレンキン博士の理論のバックボーンとなっているのは、インフレーションで急膨張する前の宇宙、「真空のエネルギー」を手に入れた世界を量子理論で考察したものであり、量子宇宙論とも呼ばれる宇宙創生の理論的予測ということになります。

そこにおいては、量子の世界を記述する際に使われる「トンネル効果」が宇宙の誕生をもたらしたと述べられています。

量子論では、非常に短い時間の中では時間や空間、エネルギーが一つの値をとりえず、たえずゆらいでいるといいます。

量子の世界ではエネルギーもサイズもゆらぎの世界とみなせますので、大きさが無い、「無」の状態から、大きさを持つ宇宙が「トンネル効果」で生まれ、その際に獲得されたエネルギーが真空のエネルギーとして、インフレーション宇宙へと移行する原動力となるようです。

 

「ビレンキンの仮説」は観測できない理論的予想である点が難しい

「ビレンキンの仮説」は、宇宙が時間も空間も物質もエネルギーも存在しない「無」の世界から誕生したというものなので、この考え方自体が突飛すぎて理解されにくい点もあるかと思いますが、さらに理解を難しくしているのは、「ビレンキンの仮説」は観測できない理論的予想だけの世界だということのようです。

ビッグバン宇宙論などは理論予測が「観測で検証できる」という意味で、科学であり、正しい理論として受け入れられているようです。

ビッグバンが起きた38万年後の「宇宙の晴れ上がり」の時の「宇宙マイクロ波背景放射」(CMB)などは、NASAが打ち上げた観測衛星COBEやWMAPなどで観測されており、検証することができますので、ビッグバン理論について現在得られる最も良い証拠であると考えられています。

これに対して、「ビレンキンの仮説」は、観測できない理論的予想だけの世界なので、正しい理論として受け入れることは難しい面もあり、あくまでも仮説と捉えられているようですが、ただ、現在では、かなり有力な仮説と見なされているようです。

今物理学の最先端では、本格的な科学者たちが、時間や空間、特に物質や物質のベースになっているエネルギーなどの存在は、「無」から生まれたという学説を、真剣に主張しているようです。

つまり、「無」から「有」が生じたということを、科学者たちが真剣に主張しはじめているようです。

 

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One Response to “宇宙は時間も空間も物質もエネルギーも存在しない「無」から始まったとするビレンキン仮説”

  1. 赤塚俊美 より:

    科学雑誌のNewtonが、数年前に、ビレンキン博士にインタビューをしています。その中で、博士は上記の記事の様な内容の意見を述べられていますが、それが、今までのインフレーション+ビッグバン理論とどう違うのか、全く意識もせずにその記事を読んでいました。私は、インフレーション理論を説明するための話だというような受け止め方をしていて、このサイトで始めて、ビレンキン博士の理論を正しく理解することができましたが、悲しいかな、素人が、「正確に理解する」などと言うことができるわけもない気がします。
     また、博士はこのインタビューの中で、「宇宙は有限なのか無限なのか分からない」というようなお話をされていますが、私はこの話には、とても大きな違和感を感じで、それからずっと、なぜこんな話になってしまうのか分からず、考え続けてきました。インフレーション+ビッグバン理論が正しいという前提の話なら、宇宙がどうして無限になる可能性があるのか、理解できません。
     宇宙は無から素粒子状の「タネ」のようなものが生まれ、直後に突然にインフレーションが起こって、その後ビッグバンが起こった、という時系列にそった説明図が、ずっと使われてきていますが、少なくとも、それが正しいとするなら、明らかに宇宙の誕生の一番最初は有限ではありませんか。「宇宙が急激に拡大する過程で、無限大に拡大してしまった可能性がある」とでも言うつもりなのか、しかし、そんな馬鹿なことはあり得ないでしょう。宇宙がもし無限だとするなら、インフレーションもビッグバンもあり得ないし、これが起こったとするなら、どんなに急激に宇宙が拡大したとしても、宇宙は有限以外に存在のしようがないではありませんか。一体何を根拠に、「有限なのか無限なのか分からない」などという意見が出てくるのか、素人の私には、とても理解不可能です。誰か、この矛盾を説明していただける方がいらっしゃいませんか?

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