[記事公開日]2016/01/03
[最終更新日]2016/04/09

宇宙論や物理学における「ディラックの巨大数仮説」と「人間原理」との対立

「ディラックの巨大数仮説」とは

宇宙論には、いくつもの思想的な対立がありますが、「巨大数仮説」と「人間原理」とは、その最たるものだとも言われています。

「巨大数仮説」は「ディラックの巨大数仮説」とも呼ばれますが、どのようなものなのでしょうか?

「ディラックの巨大数仮説」とは、宇宙物理学の仮説の1つで物理定数から求められる無次元数に10の40乗(またはその2乗)という値が現れる、と唱えるものになります。

「巨大数仮説」は、もともと天文学者のアーサー・エディントンが提唱したものですが、後に量子物理学者のポール・ディラックによって発展させられたといい、それにより、「ディラックの巨大数仮説」とも呼ばれるようです。

★巨大数仮説とは

宇宙半径÷電子半径や電磁力÷重力や宇宙の全陽子数の平方根がすべて10の40乗程度の巨大数になるのは、重力が年々弱くなっているからだ

まず、宇宙の大きさと素粒子の大きさは、だいたい10の40乗程度の開きがあります。

それから、電磁力の強さと重力の強さも同じ程度の差になるといいます(たとえば電子1個と陽子1個の間にはたらく電磁力と重力を比べます)。

あるいは、宇宙全体に存在する陽子の数の平方根も10の40乗くらいと見積もることができるというのです。

 

ディラックは「巨大数仮説」の答えとして、重力が年々弱くなっているからだと考えた

ポール・ディラックは1937年、以下のように幾つかの基礎的な物理定数から求められる無次元数に10の40乗(またはその2乗)という値が現れることに気づいたといいます。

*陽子‐電子間の電磁気力と重力の強さの比

*宇宙の年齢と光が陽子の半径を進む時間の比

*宇宙に存在する陽子と中性子の数

この一連の巨大な数を単なる偶然と考えるのか、それとも、何か深い物理学的な理由があるのか?

これに対してディラックは、これらは偶然成り立っているのではなく(何らかの必然で)、常に成り立っていると考えたようです。

この仮説が正しい場合は、物理定数も宇宙誕生以降、時間の経過とともに変化してきている、ということになります。

そして、ディラックは、その答えとして、「重力が年々弱くなるからだ」と考えたようです。

ニュートンの重力定数Gが時間に依存して弱くなるというのですが、要するに、電子の大きさや電磁力は定数ですが、重力に関係する量は時間とともに変化すると考えたとのことです。

こうして、この仮説は「ディラックの巨大数仮説」などと呼ばれるようになりましたが、今までのところ、肯定あるいは否定する根拠や、関連する他の仮説などもないことから、議論の対象にはなっていないといいます。

そして、この考えに真っ向から対立するのが、「人間原理」と呼ばれる思想になります。

 

「人間原理」とは

「ディラックの巨大数仮説」に真っ向から対立するのが「人間原理」であり、「ディラックの巨大数仮説」と「人間原理」は、宇宙論における思想的対立の最たるものだとも言われています。

「人間原理」とは、物理学、特に宇宙論において、宇宙の構造の理由を人間の存在に求める考え方であり、「宇宙が人間に適しているのは、そうでなければ人間は宇宙を観測し得ないから」という論理を用いるようです。

★「人間原理」とは

一見、信じられないような偶然にみえる数の一致は、たまたま、知的な生物(人間)の進化が、そのような数の一致と重なったからだ

「人間原理」はちょっと分かりにくいですが、このように考えるようです。

たとえば、宇宙の年齢や大きさはハッブル定数と関係します。

人間が進化するのにかかる時間は、星の進化と同じ程度だと考えられますが、星が進化するのにかかる時間は、宇宙の年齢と同じ桁だろうと思われます。

だから、電磁力と重力の比は定数ですが、私たち人類は、たまたま、宇宙の大きさと素粒子の大きさの比が10の40乗程度になった時に知的生物として「宇宙論」をやっているだけのことなのだと考えるようです。

つまり、「巨大数仮説」を唱えたポール・ディラックのように、重力が弱くなると考えるかわりに、人間が進化するのに時間がかかっただけであると考えるようです。

そして、「人間原理」によれば、将来、宇宙の半径や(それにともない)宇宙の全陽子数の数はどんどん大きくなるといいます。

 

「人間原理」は宇宙の物理法則と生命の関係についての1つの説明

物理学では、自然法則とその中に現れる物理定数が求められている値とごくわずかでも異なる値であれば、あるいは3次元空間でなければ人間のような知的生命や、あらゆる生命活動に必要なエネルギーを放出している太陽のような恒星はおろか、それらの物体を構成する原子すら形成されなかったであろうと推測されています。

つまりその場合においては、目に見える物体は何も形成されないような宇宙であり、多種多様な天体が存在するような宇宙の姿ではあり得なかったということになります。

しかし実際には、人類が存在する宇宙における自然法則やその中に含まれる物理定数は、人間のような高度な知的生命体を生み出すために必要な条件を満たしています。

このような宇宙の物理法則と生命の関係についての1つの説明となるのが、「人間原理」だということになります。

「人間原理」をどの範囲まで適用するかによって、いくつかの種類があり、「弱い人間原理」と「強い人間原理」があるといいます。

★「弱い人間原理」

ロバート・H・ディッケは、「巨大数仮説」が成立する時に人間が存在している不思議さを、人間の存在による必然と考えたようです。

そして、ディッケは宇宙の年齢が偶然ではなく、人間の存在によって縛られていることを示したといいますが、それによれば、宇宙の年齢は現在のようなある範囲になければならないということになります。

なぜなら、宇宙が若すぎれば、恒星内での核融合によって生成される炭素などの重元素は星間に十分な量存在することができませんし、逆に年をとりすぎていれば、主系列星による安定した惑星系はなくなってしまっているからだということのようです。

このように宇宙の構造を考える時、人間の存在という偏った条件を考慮しなければならないという考え方を「弱い人間原理」と呼びます。

★「強い人間原理」

ブランドン・カーターはこれをさらに進めて、知的生命体が存在し得ないような宇宙は観測され得ないので、よって、宇宙は知的生命体が存在するような構造をしていなければならないと唱えたようです。

これを「強い人間原理」と呼びます。

また、最近では、スティーヴン・ホーキング博士が、超弦理論(超ひも理論)とからめて、新しい「人間原理」を提唱しているといいます。

 

ホーキングの提唱する「人間原理」とは

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スティーヴン・ホーキング博士は、超弦理論(超ひも理論)とからめて、新しい「人間原理」を提唱しています。

ホーキングは、宇宙の時間が逆転する可能性を述べた上で、そのような現象を人間は観測できないとしました。

人間が宇宙を観測する時、それは人間の脳に記憶として蓄積されますが、時間が逆転すれば記憶は失われていくので、観測は不可能になります。

よって、時間が過去から未来へと進むのは、人間がそのような時間の流れる宇宙しか観測できないからだとしたようです。

★ホーキングの「人間原理」とは

宇宙の11次元のうち4次元だけが大きくて残りが縮んでしまったのは、4次元時空でないと知的生命体が生まれないからである

つまり、他にも5次元だけが大きい宇宙とか2次元だけが大きい宇宙は存在するものの、そのような宇宙は、単純すぎたり不安定すぎたりして、銀河や星や知的生命体が成長できないので、そもそも、「どうして宇宙は4次元なのだろう」などと小難しいことを考える存在も生まれてこないということのようです。

また、「人間原理」に関連する理論としては、ジョージ・エリスの唱えた説もあるようです。

 

「人間原理」に関連する説としてのジョージ・エリスの主張

ジョージ・エリスは、「人間原理」に関連する説を唱えているようで、通説となっている膨張するモデル宇宙に対して、裸の特異点のあるモデル宇宙を提唱し、地球は特異点と正反対の最も遠い場所に位置すると提唱したようです。

物質の密度が特異点付近ほど濃いため、銀河の分布は一様ではなく、地球の周りでは極めて薄いとされています。

このように物質の分布が偏っていると光の赤方偏移が生じ、地球からは各銀河が遠ざかっているように見えることになります。

そして、地球がなぜ裸の特異点と正反対に位置するかと言えば、特異点に近づくほど温度が高くなるなど、生物の存在に適さない環境となるため、生物=人間が存在する地球は、特異点から最も離れているべきだと主張したようです。

 

「ディラックの巨大数仮説」と「人間原理」は宇宙論における思想的対立の最たるもの

「ディラックの巨大数仮説」と「人間原理」は、宇宙論における思想的対立の最たるものだとも言われています。

そして、どちらの主張が正しいのかについては、今のところは、よく分かっていないようです。

今のところ、観測からは、重力定数が弱くなっているという証拠は無いので、「ディラックの巨大数仮説」を裏付ける証拠は出ていないということになります。

しかし、また一方では、「人間原理」は、思想的な側面が強すぎて、どうしたら「検証」できるのか、今ひとつ不明だとされています。

また、「人間原理」を用いると、宇宙の構造が現在のようである理由の一部を解釈することができますが、これを自然科学的な説明に用いることについては混乱と論争があるようです。

結局のところ、宇宙の謎や不思議は、奥が深いということのようです。

 

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